最強のクレーンメカニックを質問攻めにした結果!
クレーンの作動油クリーニング、エアーエレメントの洗浄・交換・レンタルなど、クレーンや重機のメンテナンスを全国対応している建機サービスの代表、尾形です。
今回は、これまでも建機サービスのコラムやYouTubeに登場していただいているスーパーメカニックの加藤さんにクレーンの疑問をぶつけてみました。今回も加藤さんの知識が炸裂です!
「クレーン業界にいると当たり前のように使っている13tって単位。どうして13なの?10や15じゃダメなの?」「どうして400tでも4000って表記にするの?0が多い方が迫力があるから?」
などなど、いまさら聞けない素朴な疑問もどんどん聞いちゃいます。知っていると役に立つかもしれない(?!)情報が満載ですよ。
目次
13t?51t?クレーン車の単位ってどうしてそんなに中途半端なの?
尾形
加藤さん、すっかりレギュラー出演者になってしまいましたね。嬉しいです!さて今回は素朴な疑問シリーズなのですが、この際、「こんなこと聞くのも恥ずかしい」とか気にせずにいろいろ聞いちゃいますね。
加藤さん
全然いいですよ(笑)。よろしくお願いします。尾形
では、遠慮なく(笑)。クレーン車の単位って、どうして13tみたいに中途半端なんですか?
加藤さん
お、いきなりそこですか!実は理由らしい理由があるわけではなく、たまたまなんですよ。 例えばKATOのMR–130ってありますよね。あれが出る前にMR–100があったのですが、次に出すのを何tにしようってなった時に、12tや15tじゃつまらないよね、って。 それで13tになったという話です。
尾形
そんな理由?! じゃあ51tも?加藤さん
51tは正確にはSL600-II。どういうことかというと、51t吊りだけど、60t相当の性能があるってことです。本当は50tでもいいのだけど、それだとおもしろくないから51tにしたようですよ。尾形
でも、SL600-IIってことは本来は60tですよね。加藤さん
SL600-IIって品番は最大定格荷重からきていますが、実は開発側はそこをあまり気にしていません。というもの実際の使用で最大の重量まで吊ることはないので、一生使わない性能なんですよ。
だからSL600-IIが51tでまかり通っていても、全然OKなのです。
さらに言うと、13tとか51tとかの数値は営業の人が決めちゃうことが多い。営業が「51で行こう」っていうと、51になったりします。だから、トン数だいたいは営業の人の意見かな。
尾形
うわぁ、初耳! 聞いてよかったです! 加藤さん
設計側としては最大荷重って重視していないんですよね。設計上は余裕を持たせて300tまで吊れるようにしていても、作業半径を出して計算すると実質200tまでの仕事しかできないってこともありますし。例えばKATOのNK−3000って機種があるけれど、あれは最大200tしかない。だから3000はただのニックネームってことです。
尾形
なるほど。実用上の数値に意味があるってことですね。ところでこれも素朴な疑問なのですが、NK−3000って表記になるんですか?300tってことですよね。どうして0が一個多いのでしょうか。加藤さん
考えたこともないな……。確かに他社でもそうなっているけど、どうしてなんでしょうね。でも、これは関係ないけど、アメリカのクレーン車は独自の表記を使用していますよ。ショートトン(short ton. )という重量の単位です。
現1ショートトンは907.18kgだったかな。国によってそれぞれですよね。まさかのニックネーム?!クレーンには名称が2つある!!
尾形
アメリカって、数字の単位が独特ですよね。インチとかフィートとかもあるし。では、ついでにもう一つ。クレーン車の表記ってどうして2つあるんですか?加藤さん
おお、よく気づいたね。そうなんですよ。一つは型式で、一つは俗称って感じに2つあるんです。例えばラフタークレーンでSR-250RとはRiとかっていうのがあるけれどこれは俗称で、型式としてはKR-25H-V7とかV8になります。どっちも味気ないけどね(笑)。
もっとわかりやすい例で言うと、乗用車とかがその典型かな。
例えば日産のスカイラインって車がありますよね。あれは完全に俗称で、型式としては5BA-R34とかR33とか、細かくいろいろとあるわけです。それらをまとめて「スカイライン」って呼んじゃっている。
まぁ、俗称というより愛称みたいなものだね。そのほうが覚えやすいし、親近感が湧きますからね。
クレーン車の味付け(乗り味)はどうやって決まるの?
尾形
よくわかりました!やっぱり聞いてよかったです!ではではまたまた話は変わりますがクレーン車を設計・開発するときって、どのようにしてデザインや味付けを決めていくのですか? ライバル社を意識したり、開発担当者の一存だったり、いろいろとあると思うのですが。加藤さん
何か1つの理由があるわけではなく、理由はたくさんありますよ。まぁ、でもKATOならKATOのテイスト?味付けってあるし、TADANOならTADANOの味付けがあるから、これまでの流れを継承することが基本ですかね。
新機種を出す時は、開発担当者や技術者だけではなく、お客様にも試乗してもらって設計していきますよ。
細部まで一つひとつ試して、納得がいくまで微調整します。なかなか骨折り作業ですが、それが設計の醍醐味でもありますね。
尾形
うわぁ、時間かかりそうですね。ちなみに一つの機種を世に出すまでに、それくらいの期間が必要なのですか?加藤さん
機種によりますね。まちまちですよ。2週間でテストが終わった機種もあれば、2年かかった機種もあります。尾形
2年!ちなみに記憶にある限り、近年で一番難産だった機種はなんでしょう?加藤さん
KATOの400tですね。KATO初の1本シリンダー方式なので、かなりテストをして煮詰めました。特に制御システムはバグがないかどうかなど、何回もテストを繰り返しました。
シリンダーをどうやって伸縮させるか、そしてどのように制御するか、新たにゼロから考えました。
油圧経路も新規に設計しましたね。KATOとしては、最初は1本シリンダー方式に否定的だったのですが、軽量化できることを考えて、KATO初の1本シリンダー方式としてKATOの400tをリリースしました。
尾形
なるほど、なかなかの挑戦だったのですね。ところで新機種を開発する際に、参考までに他社のクレーン車を調べたり分解したりすることってあります?加藤さん
やったことはありますが、実はあまり参考にならなかったですね。KATOにはKATOの流儀がありますし、TADANOならTADANOの流儀があるので、他社の製品を分解して調べたところで、「ああ、そういうことなのね」って思うくらいで、参考になるようなデータや知見は正直得られないですね。
海外製のクレーン車はぶっちゃけどう?
尾形
海外のクレーンメーカーのクレーン車で「おお、これはすごい」って思うものはありますか?加藤さん
技術者の視点で、しかもかなり個人的な意見になってしまうのですが、ドイツのグローブ社というところが出しているクレーン社は面白いと思いますね。特に足回りが面白くて、古いジェット機の前足と似ているのですよ。本当によくできているって感じますね。ただ、壊れやすいのが難点だったかな。
それは、グローブ社の問題というより日本の気候が合わなかったのかもしれません。機械はデリケートなので、気温や湿度によってコンディションが変わりますからね。
ドイツは大陸性気候で乾燥しているので、きっとアジアの温暖湿潤気候が合わなかったのかもしれませんね。
尾形
「ジェット機の足回りと似てる」なんて、誰もわかりませんよ!飛行機の免許も持っている加藤さんしかわからないですよ!(笑)でも、実際に日本製のクレーン社は海外でも評判がいいですよね。なぜ海外で評価されているのですか?
加藤さん
クレーン車に限らず、日本のプロダクトは品質がいいですからね。ハイテクこそ追ってないけれど、オーソドックスな構造で抑えるところはちゃんと抑えているし、複雑ではないから壊れても簡単に直せる。この保守性と維持のしやすさが好まれる原因なんじゃないかな。
尾形
国民性なんでしょうかね(笑)。日本人は真面目で几帳面ですからね。さて、こちらも気になっているのですが、どうしてクレーン車って、絶対にジブ付きで売っているのですか?ジブを使わない人もいますよね。
加藤さん
実は昔はジブなしもカタログに載ってたのですよ。それがいつの間にかカタログから外れてしまって。日本に限らず、海外でもジブ付きで売っていますね。というのも、やはりジブがない状態だと理論上は作業のバランスが悪いんですよね。ジブは付いていた方が性能が出せる。だから、本来のあるべき形で使ってもらいたいってことなんじゃないかな。
尾形
やっぱりジブには意味があったのですね。海外との比較でまだまだ疑問があるのですが、海外だと60tのオルタークレーンがバンバン走っているのに、日本ではオルターってあまり多く走ってないですよね。あれも理由があるのですか?加藤さん
理由は意外なところにあります。実は税金の関係なんですよ。ラフターとオルターでは、税金が全然違うからです。具体的には、ラフタークレーンはどういうわけか固定資産税だけでOK。一方オルタークレーンは自動車税や重量税、それから自動車取得税というのがかかってきます。
だから、税金面ではラフタークレーンを買った方が断然お得ってわけです。
でも不思議ですよね。どう見ても車両なのに重量税がかからない。一番道路を酷使しているのに、税金が少ないってどうなんでしょうね。
クレーン車も電気化の流れ? フル電動は本当に使えるの?
尾形
そういうことだったんですね。謎が解けました。ではでは最後の質問です!
少し前にTADANOから世界初のフル電動のクレーン車が発表されましたよね。電動のクレーン車って実用性はどうなんですか? 本当に問題なく動くのですか?加藤さん
普通に動きますよ。すごく高いですけどね。電動のクレーン車としては、中国のズームライオンという会社が数年前に電動のトラッククレーンを出しています。だから、厳密に言うと今回が世界初って感じではないかな。
ズームライオンが出した電動クレーンは……まぁ、売れてないですね。理由は2つあって、まず価格。高い。それから電動だと航続距離が短い。だから売れてないのだと思います。もちろん今後改良されて、価格面も含めてどんどん良くなっていけば、状況も変わってくると思うのですが。
尾形
車が既に電気化に舵を切っているように、これからもクレーン車の電気化の流れは続くのですか?加藤さん
そうかもしれないですが、技術屋としては従来のディーゼルでも電気でもどっちでもいいんですよね。要は売れてくれればいい(笑)。でも、地球環境を考えると電気化の流れはこれからも続くだろうし、自分としてはハイブリッドが妥協案かなと思います。フル電動のクレーン車は手を出すにはまだ高いので、今後の動向に期待って感じですね。
尾形
加藤さんが言うと説得力あります。クレーン車を取り巻くこれからの動きに注目ですね。今日はたくさんの貴重なお話ありがとうございました!メールでのお問い合わせ
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